東京奇譚集 / 村上春樹

東京奇譚集 (新潮文庫)

東京奇譚集 (新潮文庫)

文庫本となったため買う。

"奇譚集"と銘打ってはいますが、村上ワールドの「あちら側」で展開される物語はもともとファンタジー的要素が強いので、あまり"奇譚"でもない気がします。全体的には『神の子どもたちはみな踊る』に連なる印象が強い。心の闇、圧倒的な力と立ち向かうときの無力さ、、、、等々、ひとことで表せないテーマであることは確か。以下、全五編メモ。

偶然の旅人

村上春樹自身が語る物語として始まり、グッと引きつけられる。本書を一気に読み切るきっかけに。ゲイの調律師が語る言葉が印象的。

かたちあるものと、かたちのないものと、どちらかを選ばなくちゃならないとしたら、かたちのないものを選べ。それが僕のルールです。

ハナレイ・ベイ

サーファーの息子を亡くした母親の物語。息子自身を懐かしむのではなく、あくまで自分の半生と向き合うために息子が無くなったその場所(=ハワイのサーファーズスポット)に毎年向かう女性の話。主人公の生きながらにして死んでいる感じ、達観している感じが好きだな。

どこであれそれが見つかりそうな場所で

謎めいた失踪をしたエリートサラリーマンを探す男の話。主人公が何故、人捜しをしているのかのバックグラウンドは全く語られない。『海辺のカフカ』中田さんの猫探し能力に近いのかな、と勘ぐってみたりする。

日々移動する腎臓のかたちをした石

小説家である主人公(淳平)が女に新作の筋を話し始めるあたりから、ガラッと印象が変わる。「主人公が小説家/名前が淳平」なのは『神の子どもたちはみな踊る』の『蜂蜜パイ』と同じ設定である部分を深読みする。「父親からの呪いめいた言葉」は『海辺のカフカ』の父殺しに通づるのかな。

品川猿

示唆しまくりの内容のワリには、ちょっと身も蓋もないオチなんちゃう?と思いつつも面白い。もっともっといろんなエピソードがあるべきなのでしょうかね?『かえるくん、東京を救う』では、「博学なかえる」が主人公と対峙するわけだが、今回は「腰の低い猿」ですか。