マイ・ロスト・シティー

マイ・ロスト・シティー (村上春樹翻訳ライブラリー)

マイ・ロスト・シティー (村上春樹翻訳ライブラリー)

グレート・ギャツビー』に引き続いての村上春樹スコット・フィッツジェラルド作品・短編集。

フィッツジェラルドは、「自分は二流の作家ではないのか」という不安に怯えていたという。訳者である村上春樹のエッセイでも紹介されいるが、同時代の作家であるヘミングウェイと比較した彼自身の象徴的。

アーネストは牡牛で、僕は蝶だ。蝶は美しい。しかし牡牛は実在する。

ハードボイルドで"文豪的"なヘミングウェイ。それに対して、都会的・現代的な描写をするフィッツジェラルドは"流行作家"という風情。文豪的「重さ(=牡牛)」と対比した、流行作家的「軽さ(=蝶)」が彼自身のコンプレックスの一因だったのか。現代においても、「ケータイ小説は文学か否か」という議論がなされており、それに近いものがあるのかもしれないな、と思う。*1

でもって内容ですが、僕は「氷の宮殿」が好き。地域性(南部と北部)とコミュニケーションがテーマで、日本人にとってはいまいち想像しづらい内容ではあるのですが、北部にやってきた南部出身の女の子が感じる「北部の寒さ→人間の冷たさ」に関わる描写は、引きつけられる。